人に薦められて、初めて矢作俊彦を読んだ。彼の初期の作品の主たる発表の舞台であったミステリマガジンを毎月買っていたこともあり、名前を知ってから30年近くになるはずだが、何故か一度も手に取らなかった。
日本のハードボイルド作家はたいていレイモンドチャンドラーに心酔して病膏肓モードで自作をチャンドラーの似姿に仕上げるわけだが、似姿度でピカ一なのは何と言っても「原りょう」だ。しかし、「ピカ一」と言うと他と比較した上で言っているようだが、実は原りょう以外に日本のハードボイルドなんか読んだことも無かったのである。ある日、「原りょうはいい」と触れ回っていたら、友人に「お前、矢作俊彦は読んだのか」と言われたことがある。その時は「無い」と答えて、相手に呆れられたところで終わっていたわけだが、先日またまた飲み会で話題が原りょうに及んだ際に、「原りょうもいいけど矢作俊彦を読んだ方がいい」と言われ、何度目かの正直で手にとってみたという次第である。