黒い里芋

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私が小学生の頃、おばあちゃんが淡路から泊りがけで遊びに来た。何日か経ったある日、私とおばあちゃんで留守番をしていた時に、おばあちゃんが里芋の煮物を作った。慣れない台所で覚束無げに煮物を作るおばあちゃん。やがて完成したらしく、おもむろに「味見してみ」と私に指し示したお鍋の中を見てビックリ、里芋がかつて見たことが無いくらい「真っ黒」なのである。ちょうど、有吉佐和子の「恍惚の人」がベストセラーになってた頃で、私はその芋を見た瞬間に「でたー。うちのおばあちゃんもとうとうボケてしもうたぁ。」と言い様も無い恐怖のような憐憫のような感情に捕らわれた。
夕方になって、おかあちゃんが帰ってきた時、真っ先に駆け寄って「おばあちゃんとうとうボケたで。変なもん作ったで。」と耳元で囁いた。おかあちゃんは笑いながら、「薄口と濃口間違えたから、色が黒うなってしもてるけど、味は普通や。あんたも食べてみ。」と黒い里芋を私に差し出す。今さら「味は普通や」と言われても、ここに至るまでの数時間をおばあちゃんとおばあちゃんの真っ黒な里芋と共に言い知れぬ恐怖の中で過ごしたのである。うわぁどうしよう、早く誰か帰ってけぇへんかなぁ、と少しでも時間が早く過ぎてくれと祈るように過ごしたのである。いまさら、「味は普通や」と言われたぐらいで「ほな、食べてみよか」と言えるものでは無いのである。
というわけで、味は普通だったらしい黒い里芋を私は一切口にすることが無かった。その後、東京に来て、黒い煮物は様々目にするようになったが、あの時の里芋ほど黒い煮物は見たことが無いように思う。未だに、おばあちゃんは単に薄口と濃口を間違えた以上のなにやら禍禍しい見てくれのものを作ったようにも思うんだが、本当のところはどうなんだろう...

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コメント(1)

こんにちは。いのうえです。
ご存知とは思いますが、里芋やレンコンなどはアクがあるため、皮をむいてすぐに水につけないと黒くなってしまいます。煮物の場合、その後さらに、アク抜きのため下茹でしてから、醤油などの味を付けて煮ふくめますけど、おばあさまはここらあたりを、省かれたのではないかと思うのですが。あと、質の悪い里芋などで切り口が褐色なのがありますが、(上質のものは切り口が真っ白です)こういうものはいくら上手に煮ても色が黒くて不味いものに仕上ってしまうと聞いた事があるので、芋もハズレだったのかもしれません。これに、濃い口醤油を使ったので、最悪の結果になったのでしょう。
いずれにせよ、けっこう辛いトラウマですね。(笑)

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このページは、ueharaが2004年3月15日 18:38に書いたブログ記事です。

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